2017年9月30日土曜日

一期一会


半世紀を過ぎた私の年齢のせいでしょうか。最近、次々と大切に感じていたお店や食べ物が消えていく目にあっています。家の近所で子供のころから親しんでいた肉屋が店を閉じたのは、たしか4年前。焼き豚や鳥唐揚げが美味しくて、私の家でご飯を食べたことのある人はたぶん皆、その味を知っているはず。幸い、その肉屋さんの家は近所にあって、学校給食への卸しを続けているので、個人的にお願いして何とかルートは今も確保できています。ところがその肉屋の隣にあった魚屋がこの8月、突然店を閉めたのです。連日シャッターが閉まっているので夏休みかなと思っていたら、店の前に張り紙が。「店主の急病により閉店します。長らくのご愛顧ありがとうございました。」旬の魚や珍しい刺身、塩辛や氷頭なますも旨かったし、地物の蛤の味もこの魚屋で教えてもらいました。何の前触れもなく、毎日あると思っていたものがなくなる寂しさ。鮪の刺身をおまけしてくれた優しいオヤジさんの笑顔にはもう二度と会えないのです。食べることが好きで、食べることを縁に繋がった人たちが好きだった私にとって、とても辛い出来事でした。そしてさらにこの9月、追い打ちをかけるように、お気に入りの店から残念な知らせが届きました。昨年8月、旅行で訪れた本州四国を結ぶしまなみ海道の大島で偶然立ち寄った、時間の流れが止まったような古色蒼然たる味噌屋さん。ここは旨そうだという私のセンサーが働き、車を停めて、その薄暗いお店兼工場へ入ると、ピノッキオに出てくるジュゼッペ爺さんのようなお爺さんが店番をしていました。絶対当たりだ!瞬間にわかりました。良い店にはジュゼッペ爺さんがいるのです。昔、ウィーンの楽譜商ドブリンガーの古書部を初めて訪ねたときのラウアーマンさん。まさにジュゼッペ爺さんだったのです。そこの味噌は西日本特有の甘い味噌で、麹がたっぷり効いており、瀬戸内の優しい潮の味がまろやかな素晴らしい味噌でした。すっかりファンになってしまい、東京に帰ってからも現金書留!(ネット通販なんてやってないのです)でお金を送り何度か味噌を取り寄せました。ところが今回、お金を送ると、先方から電話があり、身内の不幸があり今回が最後の発送になるとのこと。ジュゼッペ爺さんが…。もう、食べられない。もう、会えない。そんな思いで胸がいっぱいになるのです。一期一会。昔、ある取材のため、私の職場にひょっこり現れた作家の阿刀田高さんが、私の手帳にこの言葉を書いてくださったのを思い出します。そんな人との出会いの積み重ねで、豊かな人生を過ごしている幸せをこんな機会に実感するのですから、人間というのは情けないものです。私が大学生の頃から通っている都内のフランス料理店が、これも最近、テレビ番組で「後継者のいない名店」として紹介されました。よく知った店の景色や料理、そしてオーナーの顔やおしゃべりが遠い存在に思えてしまって、楽しいというより当事者的に切なくなってしまいました。人生の折り返し点を過ぎ、一期一会の言葉の重みを感じる今日この頃です。
しまなみ海道 大島の田舎味噌

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